フジテレビ「禁断の対決」撮影顛末記
【本文は、フジテレビの撮影が終了し、放送前の段階で撮影に直接協力した方だけに今日お祐されたものです】
フジテレビの撮影がいったん終了しました。
撮影にご協力いただいたみなさん、ありがとうございました。
個別にお礼を言いたいところですが、「あのとき何が起こっていたのか?」を私が語ることでお礼にしたいと思います。
また、「なぜ勝ったのか」「なぜ負けたのか」を考察することで、本人たちだけではなく、その場で同じ空気を吸った剣士たちの成長を促すことができるのではないかと思います。
厳しいことを書くかもしれませんが、みな自分のこととして良薬に変えてほしいと思います。
起床4:30 衛藤さんの迎え5:30 武道館入りセッティング6:00 カメリハ開始7:30 本番9:00開始
第1戦目 箕輪〇 × 川尻×
第1戦目が始まった。
アイマスクをした2人。
内弟子なら知っている。
光も遮断し、前は一切見えない。
しかし、川尻は怪物だ。
すぐに箕輪の対角線左前に向かって歩き出す川尻。
川尻は明らかに箕輪をとらえた。
これは、フジテレビのカメリハで湾岸スタジオに行き、「天才」とフジが称した箕輪の対戦相手をオーディションしたときの川尻の戦い方だ。
相手の横に回り込み、そこからまっすぐ攻撃に入る。
相手の準備が整う前に一気呵成に攻め立てる。
この前に前に攻めていく攻撃を私は「前々の攻撃」と呼ぶことを内弟子は知っている。
これは無外流本来の特長ではない。
剣道の動きだ。
ジュリアーノ熊代も、衛藤も準備が整わないままそれに沈んだ。
熊代も衛藤も、まったく川尻に刃が立たなかったのだ。
ディレクターは「もし自分がアイマスクをしてなくて、川尻さんがしていたとしても、まったく勝てる気がしない」と感嘆した。
フジは川尻を「怪物」だと称した。
しかし、箕輪は動いた川尻に気づいた。
回り込むのは、相手が気づかないからできることだ。
箕輪は川尻が動くとそちらにからだを向ける。
川尻は回り込んで箕輪に向かって前々の攻撃をしかけたが、箕輪は川尻が抜刀したのを気づき、からだを沈めて足を狙った。
一本。
私は既視感を感じた。
そうだ、これは熊代が4戦のうち1勝をもぎとった3戦目の勝ち方だ。
あのとき、いきなり前々の攻撃をしかける川尻に2敗した熊代は、意地をかけたのだろう。
「もう一戦させてもらえませんか」と言った。
熊代は逃げつつ、追いかける川尻を誘い込み、長身を沈め足を狙った。
川尻の刀は空を切り、熊代は川尻をつかまえた。
箕輪はあのオーディションには関係が無かった。
箕輪の相手をできる選手を探すためのオーディションだったからだ。
しかし、彼は来て、そして見た。
あの熊代の貴重な1勝に箕輪はこう思っただろう。
川尻の攻撃はひたすら前々。
しかも抜刀して一番近いところを狙うから中段へ攻撃をかける。
上下に散らせばまずは1勝だ。
だから最初から狙っていたように見えたのだ。
箕輪は、熊代から勝ちパターンを手に入れなりふり構わず自分のものとした。
獣はなりふりを構わない。
この後、印象的だったのは、インタビューでの2人の回答だ。
川尻は、相手の位置がなぜわかるかという質問に「音ですね。」と何度も答えた。
箕輪は、「相手の気配はわかる。こちらに殺気が向かうから。わからないときはわざと動いて、相手の次の動きを誘う。動けば空気が変わるからわかる。そのためにも坐禅を学んだ」と答えた。
フジが求めたのは、番組が日本を感嘆させる答えだ。
この場合は、「あー、音なんだ」という川尻の答えではない。
「坐禅をして、武道の稽古をすれば、気配がわかる」という箕輪の答えだ。
このインタビューで、流れは決まったのではないか、と私は感じた。
勝負を俯瞰して見れる方が勝つのは勝負の鉄則だ。
第2戦目 箕輪× × 川尻〇
休憩を十分にとったあと、ほら貝の音で第2戦が始まった。
主審熊代の「はじめ!」の声とともにずんずんと川尻が前に進んだ。
明らかに箕輪の位置を把握している。
それを跳ね返そうと箕輪は抜き打ちで狙ったが、川尻は飛んだ。
これを「玉光」のバックステップだと言ったが、本当はそうではない。
上に飛ぶからだ。
もし、見えていれば、間合いは同じなので箕輪のものうちは川尻をとらえたであろう。
後ろがない箕輪にさらに前に進み斬りつける川尻。
箕輪はこのとき、川尻が間合いの中にいるのを知ってバックステップした。
しかし、思った以上に近い川尻は、その箕輪を斬り捨てた。
箕輪は背中に壁を背負っていたため、そのまま下がることができずに斬られてしまった。
川尻を応援しているのは、埼玉から東京城北支部だ。
元気がいいから大騒ぎになった。
押せ押せ、の雰囲気が生まれた。
数値的に1勝1敗だと言っても、雰囲気で箕輪は完全に押されている。
実況をしていた第3道場から様子を見に行くと、控えで箕輪は頭を抱えて目をつむっている。
追い込まれているのだろう。
しかし、本当はそうではなかった。
箕輪はそこまでの2戦から戦術を変えようと考えを変えたのだ。
前々の戦いをし続ける川尻に対して、1戦目は下段に行くことでつきあい、2戦目はバックステップでさらにつきあった箕輪。
落ち着け、本来前々の戦いから卒業したはずではないか、そう自分に言い聞かせていたのだろう。
この決意は3戦目でわかることになる。
第3戦目 箕輪〇 × 川尻×
実況席のモニター
3戦目が始まった。
川尻陣営は押せ押せムードが高まっている。
箕輪に対して進む川尻。
箕輪は川尻の位置がわからずに派手に動いた。
誘いだ。
これに気づかず、逃すまいとさらにずんずんと前に入った。
箕輪は目の前にいる。
川尻が抜刀しようとした空気を箕輪は感じたのだろう。
1戦目、2戦目とは明らかに違う動きをした。
左にからだをサバいたのだ。
川尻の刀は少し離れた箕輪をとらえようとするが、抜けばそのまま川尻が前にいる箕輪の刀の方が速いのは一目瞭然だ。
サイドから川尻の脇をとらえ、ついで抜刀する右腕をとらえ、川尻の刀を吹き飛ばす。
一瞬で下がった箕輪はアイマスクをしているからわからないものの、「刀を落としたんだろう」と想像した。
主審、副審すべての旗が箕輪の白を上げたとき、箕輪は血ぶりをしていた。
この3戦目のインタビューで箕輪の怒りが爆発していたのを私は感じていた。
「川尻さんの戦いは、猪突猛進だ。読み合いする間もない」
箕輪は、道場での稽古でも無外流居合を標榜する鵬玉会として、”闇夜の形”である奥伝「神門(かみのと)」を使おうとしていた。
私がそれを使ってほしいと、形を番組で披露するのをちゃんと理解していたのだ。
30秒のCM一本を新春のフジの特別番組で流すとしたらいくらするのだろう?
それをおそらく30分以上使わせてもらえるのだ。
「無外流居合の保守本流、鵬玉会ここにあり!」という絶叫を、いま任されているのだ、なぜ番組の看板である気配の読み合いをせずに、平気で間合いに入って来るのだ?
これでは神門は使えないし、番組をおもしろくできないではないか!
その怒りが「猪突猛進」「読み合いする間もない」という言葉に現れていた。
それも聞こえるように大きな声で。
『川尻、番組なんだぞ、自分が勝つことだけを考えるな』
という声が私には聞こえるようだった。
そして
「前々攻撃はもう効かないぞ!俺は無外流だ!」という宣言のように感じた。
第4戦目 箕輪〇 × 川尻×
実況席。今湊アナウンサーと。
箕輪2勝1敗、川尻1勝2敗で迎えた運命の4戦目。
もし箕輪が勝てば5戦目を待たずに勝利。
もし川尻が勝てば、決戦は5戦目となる。
川尻は刀を抜き始めた。
見ていたものは、ここで初めて川尻は、それまでの「抜き打ち」から始めるという戦い方を変えたと思ったと言う。
しかし、川尻の戦い方はまったく変わっていない、とモニター越しに実況席から私は思った。
川尻は得意の突きで勝負に出る気だ、これこそ前々の攻撃だ。
本当の驚きは次の瞬間だ。
川尻が前に出てくるのを感じた箕輪は、3戦目の勝ちパターンである「左へ回る」を捨て、「右へ回る」という賭けに出たのだ。
突きへのサバキは右に回るが定石だ。
「川尻は負けられないと、得意の突きに来るのではないか」と読んでいたかもしれない。
なんとその突きは箕輪の顔の脇を数センチで通り抜けた。
この瞬間箕輪の刀は川尻をとらえた。
実況専用となった第3道場ではアナウンサーも絶叫していた。
ディレクターは「まるで漫画です!見えているんじゃないか、って思うほどです!」と大騒ぎだ。
たしかに劇的だ。
しかし、仮に見えていたとして、そんな勝負を誰ができると言うのだ?
私が育てた箕輪は、圧巻の勝負を決めた。
なぜ2戦目に負けたか、神経が磨り減るほどに考え、川尻の前前に付き合うことをやめ、無外流として戦い、都度戦い方を変えた箕輪。
自分の勝ちパターンに固執し、「戦い方を読んだぞ、番組を成立させ、組織のためにも戦い方を変えろ」という箕輪の絶叫を理解せず、最後まで剣道の前々という戦い方を変えなかった川尻。
対照的だ。
終了後、試し斬り収録でかつて誰も映像の中でやっていない「破図味」で飛びながら斬った箕輪。
川尻は「置き藁で斬る」ことを宣言していたため、映像の中でダブることを避け私は試し斬りをしなかった。
ここまでの流れを考えれば、同じく置き藁で斬れる箕輪があえてそれをしなかった理由は察することができる。
かつて極真会で、ビール瓶切りができた芦原英幸師範が、メディアの中で一度もそれをしなかった理由と同じだ。
私が少年時代はその単行本で、長じてからは10年以上にわたり薫陶を受けた、元週刊プレイボーイ編集長の島地勝彦さんは、かつて私にこう言った。
「人間には格がある。特に凄い人は別格と言う。ここまではいる。しかし、実はその上がまだある。それは、規格外の破格だ。武田、それを目指さなければならないよ」
箕輪は破格を目指せる位置にある。
ぜひ目指してほしい。
内弟子ならば、その背中を追わなければならない。
逃がしては駄目だ。
追撃し、追い落とす。
それを目指してこそ、組織の成長はある。
川尻は今回の経験をただの思い出にせず
成長を目指さなければならない。
君の武道家人生はここからだ。
最後につけ加えておきたい。
どんなときも自分で背負わなければならない。
サムライは言い訳を用意してはならない。
箕輪は実は少し前に事故にあっていた。
あの試合のとき、むち打ちが残っていて万全ではなかったことをひとは知らない。
なぜなら、彼は言い訳につかわなかったからだ。
箕輪は勝つべくして勝った。
終了後、撤収のために荷物運びをした車の横で、私のところに箕輪は来ていった。
「覚悟を決めました。
鵬玉会に自分を捧げます」
彼は1月、武徳殿で五段を允許される。
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