自鏡用法25箇事
無外流居合のもととなった、多賀自鏡軒の自鏡流。多賀自鏡軒は、「自鏡用法25箇事」として、刀の用法についての考察を25箇条を越しています。これを13代中川宗家が解説、さらに私たちの宗家である新名玉宗宗家の師、15代塩川宗家が記録したものがあります。
この解説をダイジェストでご紹介します。
いつか自分にぴったりの刀と出会えるだろうか。流派によって向き不向きの刀がある。どんな流派も、他流の方に聞いても参考にならないのは、このためだ。もし刀を欲しいなら、それは決して気軽な買い物ではない。
事前に知っておこう。これはあくまで私たち無外流一門に限った刀の選び方である。多賀自鏡軒が示し、中川宗家が解説、塩川宗家が採録したこの25か条は、私たちの道を明るく導く光である。
1 長短の事
其の身の分量によることなり
徳川四代将軍家綱の治世、寛文十年に「帯刀寸尺の令」が発令されて「太刀は2尺8寸9分迄、脇差は1尺8寸を限りとす」と定められた。しかしこれでも太刀は相当長く、漸次短くなって2尺3寸前後となった。
技量、力量、身体の大小により、自分に適した刀を持つことがよい。
2 反りの事
反りの事 反りあるがよろし、無反りは悪し
刀の反りは切断に必要上生じたものである。大体5分から7分くらいまでがよく反りが深すぎると切断のとき、刃筋の通りが悪い欠点がある。また反りの無い刀は切断よりも打撃になりやすく、手元に響いて、斬りがたい。
適当な反りは抜刀や納刀にも有利である。
3 三角の事
みすみの刀損あり
これが何を意味しているのかは、刀剣鑑定家の権威である山田英氏にも確認したが不明であった。
4 平身の事
これ亦同様
脇差ならともかく、大刀では鎬のない平造りの刀身は実戦的な刀ではない。
5 大切先の事
心は付焼刃、古身にするるものあり
大切先の刀は一見豪壮であるが、長巻を刀身に作り替えたもので実戦的ではない。実用刀としては小切先または中切先を可とする。
6 板目の事
悪し
板目肌の刀身は、折り返し鍛錬の度が少なく、大抵折り返し8回を限度とする。8回折り返すと重ねは256枚となる。板目では鍛錬が不足とみてよい。
7 正目の事
よろし
正目即ち柾目のことであるが、柾目も10回か12回折り返し迄の鍛錬位がよい所である。(鍛えすぎは)鉄は脆くなって役にたたなくなる。刀身は堅いと同時に粘りが必要なのである。
故に柾目が肉眼で見える程度をよいとする。
8 樋の事
樋あるを用う、打ち合って折れず
樋を掘ることは、刀身の目方を軽くすると同時にレールの原理と同じく、曲がり難く折れ難くなる。
9 目釘穴の事
頭に寄りたるはねじ止め、鍔元は竹よろし
中心(なかご)尻の目釘穴にはねじ止めの目釘を用い、関に近い中心穴の目釘は竹を使用するのがよい。
10 二つ目釘の事
一つはねじ止めなり
11 ハバキの事
一重ハバキよろし、二重ハバキは跳ねることあり
実戦時代の太刀ハバキは凡て一重ハバキである。
12 切羽の事
二重切羽悪し、柄ゆるむ
実戦用としては一重切羽すなわち鍔の両側に一枚づつの切羽をはめるのがよい。
13 鍔の事
鉄にすることなり、 赤銅など至って悪し
実用刀には鍛えた鉄鍔が最上である。彫刻などあまりない方がよい。赤銅鍔は重く、傷つきやすい欠点があり、むしろ装飾である。
14 柄鮫の事
鮫かけて置くことよろし
柄木に鮫皮を貼りつけて、柄糸を巻けば柄糸もゆるまず、柄を握った時指のかかりもよく滑らないのが長所である。
15 目貫の事
小さきを用う
目貫の最初は、柄の表裏に短冊形の金属をくい違いに添えて柄糸を巻き、柄の補強に使用したものであるが、後には装飾の具となって、大形のものが現れるようになった。
大形の目貫をとりつけた柄は、握り締めにくい欠点があるので、小さい方が可とされたのである。
16 栗型のこと
廻し栗形よし、低きを用う
刳(く)り形だという説もある。又栗の形をしているから栗形という説もある。
栗形は鞘の外側にとりつけ、下緒を通す具であって、水牛、金属、木製がある。
廻し栗形とは、鵐目(しとどめ)をはめる所も丸くなっていて、鵐目を用いない。下緒の抜き差しに便利である。実用を主としたものであるがあまり見かけない。
高い栗形は抜刀、納刀の時に手ざわりになってよくない欠点がある。
17 返角の事
無きがよし
一般にさぐりという、逆角(さかづの)又は返角(かえりづの)ともいう。
前方に鞘が抜けないための具であるが、操刀上不便である。
18 縁頭の事
薄きを好まず、厚き方よろし
頭金は武用刀には金属製の厚手の方が当て身に有効である。
また縁金は切断の際に刀の力が懸かる部分であるから、やはり厚手で丈夫なのがよい。
実戦の場合で最も痛み易い部分は柄であるから、柄木の選定、縁金、頭金、柄糸の巻き方は最も大切なことである。
19 下緒の事
駿河打又は袋打よろし
下緒はタスキにするとか、敵を生け捕りにした時にくくるとか、抜き合った時に腰からはずれないように帯にくくりつけるとか、使用の目的は種々あったらしい。
下緒は柔らかなのを用ゆるがよく、固い下緒はしまりがたくて解けやすいのでよくない」と窪田清音は記している。
駿河打ちとは、糸をあぢろに編んだもの。
袋打ちとは、細い袋状に編んだ下緒のことである。いずれも柔らかである。長さは一尋(約六尺)が普通で、鞘の長さに応じて定めることも剣法畧記に記されている。
20 鵐目の事
小さき方よろし
鵐目(しとどめ)は柄頭の金具の両側にある柄糸を通す穴と、栗形の下緒を通す穴の両側にはめ込んだ小さな金具のことである。実用刀には小形のものが多い。糸のしまりも小さいほうがよろしい。
21 鞘の事
丸鞘よろし、平たきを嫌う
抜刀、納刀の際に固く締めた角帯の間で鞘をまわすので、丸みを帯びた鞘の方が操作がしやすいためである。薄手の平たい鞘は廻し難いためである。
22 鐺の事
角経たず 船底形にて中高を用う
鐺(こじり)は鞘の末端にとりつけた金具で、どろずりとも云う。鞘を腰に差す時、丸みのある中高の鐺が差し易くもあり、後方の敵に対する当て身には有効である。
23 割鈎匙の事
調法なり
わりこうがいと読む。こうがいの目的は、戦場で頭髪の手入れに用ゆるものである。
割りこうがいは、こうがいを縦に二つにしたもので、合わせるとこうがいになり、二つに割れば箸の代用ともなる。
24 片引鋸の事
刀の方へ仕込みてよろし
実用的には便利であったようである。見たことはない。
25 長道具の事
野合の勝負に利あり。 然れども人の長短に随う
長刀ではなく、長道具であるから刀以外の長い武器すなわち槍、薙刀、長巻などと思われる。野合すなわち平野のような広いところでは、有利であろうが、使用する人の力量によって使用するのが適当で、誰でもというわけではない。
※ 以下、新名宗家からのアドバイスを付記しておきたい。
ダンビラの事
使うべからず
横手筋の所の身幅が2.6センチメートル、鍔より20センチメートルの所の身幅が2.8センチメートル、この身幅以上ある「品のないダンビラ」で試し斬りをしても、認めない。
形で使えない重さ、鞘をはらって1.1kgを超える刀も同様である。