第二部「拳」第三回 今日はウルトラセブンはお休み
『孤高』で書きたいのは、鵬玉会が何を考え、なぜ今の姿になったのか、ということだ。
でも、それを書くためには、まず俺が何でできているのかを書かなければならない。
三つ子の魂百まで、というだろう?
家のことを、何もかもはっきり書くのは難しい。
だから、俺という人間の本当のところまでは、わかってもらえないかもしれない。
それでも、鵬玉会がなぜ無外流最大の団体になったのかは、きっと見えてくると思う。
だから、もう少し俺の子ども時代に付き合ってほしい。
俺は、ホラー映画も好きなんだよね。
ぞくぞくするだろう?
たぶん、それも小さい頃に見たテレビドラマから来ている。
『ウルトラQ』って、知ってる?
今考えれば、アメリカの『トワイライト・ゾーン』のような番組を作ろうとしたのかもしれない。
電車に乗ったら、知らない駅を次々に通り過ぎていく。
ドアは開かない。
そのうち、電車は空へ飛んでいってしまう。
そんなものを三歳くらいの子どもが見たら、夜、眠れなくなるよ。
『ウルトラQ』が終わり、その流れを受けて始まったのが『ウルトラマン』だった。
でも、俺が一番好きだったのは、『ウルトラセブン』さ。
アンヌ隊員のかわいさといったら、なかった。
「初恋は誰?」
そう聞かれたら、俺は迷わず、
「アンヌ隊員」
と答えたと思う。
『サンダーバード』を思わせる、ウルトラ警備隊の出撃場面。
メカニックの格好よさ。
そして、登場する宇宙人たちは、それぞれの思惑を持ち、子ども向けの番組なのに、人間や社会へ問題を投げかけてくる。
幼い俺は、夢中になって見ていた。
ところが、その頃、同じ時間帯に困った番組があった。
本当に同じ放送時間だったのか、今となってはよくわからない。
ただ、ザ・タイガースが出ている番組があったんだよ。
ザ・タイガース。
知ってる?
沢田研二、ジュリーがボーカルを務めていたバンドさ。
おふくろは、二十歳で俺を産んでいる。
だから、この頃はまだ二十三、四歳だったはずだ。
考えてみたら、若いよね。
そんなに若いのに、よく俺を育ててくれたよ。
放り出したって、おかしくなかっただろうに。
おふくろが好きだったのは、石原裕次郎とザ・タイガース。
俺の名前はユウジ。
石原裕次郎から取った、と聞いたことがある。
そのおふくろが、ザ・タイガースを見たいわけさ。
幼い俺には、曜日なんてまだよくわからない。
それでも、友達が、
「今日、ウルトラセブンがある」
と話していたのかもしれない。
俺は家に帰ると、おふくろに聞く。
「今日、ウルトラセブンやったかいな?」
すると、おふくろは言うんだ。
「今日はウルトラセブンは、お休みみたいよ」
それで、二人でザ・タイガースを見る。
『君だけに愛を』という、ものすごく盛り上がる曲があった。
ジュリーが、テレビの向こうから指をさす。
「君だけに」
すると、おふくろが喜ぶんだ。
「今、お母ちゃんを指さしたよね?」
なんか、嫌な気分。
でも、格好いい。
ギターを弾いている人が、一番格好よく見えた。
指をいろいろと動かしている。
ベルベットのスーツ。
細身のシルエット。
あるいはミリタリールック。
あれを、俺はちゃんと覚えていたんだろうか。
その後、俺はバンドを始め、細身のスーツを着て、モッズにのめり込んでいく。
考えてみれば、その種はもう、あの頃にまかれていたんだろうな。
ところが、ある日。
俺がチャンネルを変えると、『ウルトラセブン』が放送されていた。
休みじゃないじゃないか。
おふくろは、俺に謝った。
俺はおふくろが大好きだったから、
「まあ、いいや」
と思った。
だって、ときどきは見せてくれていたからね。
『ウルトラセブン』の終盤、セブンが敵に敗れ、十字架に磔にされる場面がある。
夕陽を浴びたセブンの姿が、子どもの俺には悲しくて仕方がなかった。
そして、最終回。
主人公のモロボシ・ダンは、もう一度セブンに変身して戦えば、死ぬかもしれないほど傷ついていた。
そのダンが、アンヌ隊員に自分の正体を告げる。
「僕はウルトラセブンなんだ」
そして、西の空に明けの明星が輝く頃、宇宙へ飛んでいく一つの光を、自分だと思ってほしいと伝える。
アンヌが止めようとしても、ダンは変身する。
誰が何と言っても、やるときはやるんだよ。
ああ。
今、思い出しても胸が切なくなる。
戦う男への憧れも、バンドの芽も、同じ古いテレビから俺の中に入ってきたんだろうな。
俺は、そんなことを古いテレビに教わっていたってわけさ。


