第二部「拳」第六回 魂に火を灯す
マス大山カラテスクール。
今も持っているテキストは、若きケンカ十段芦原英幸師範の写真で埋められていたんだよね。
後に師範が破門になると、写真は総入れ替えになるから、俺のテキストは値打ちもんさ。
池袋の坂の下だか上だかに買ったばかりのホンダのカブを止めて、反対まで戻り、そこからいきがっている連中に喧嘩を売っていたそうだ。
「あんた、ケンカ買わない?」
そこで考えた攻防を「これは使える」「これは使えない」と試していったんだって。
まあ、目くじらを立てるのはやめておいてくれ。
こういうのが、後の後輩たちに役に立ったんだから。
今の居合の「敵がこう攻撃してきたら、こうして、こうすれば、ほら!(俺はすごいだろ!)」なんて理屈言う連中よりカッコいいと俺は思うよ。
大体さ、「敵がこう攻撃してきたら」なんて、わからないだろ?それがフェイントかもしれないんだから。
相変わらずカセットテープで「イチ!」
「セイ!」
「ニイ!」
「セイ!」
課題もあったよ。
写真を撮って送れ、って。
カメラなんか家になかったから、貯めていた虎の子のお年玉で一番安いのを探したんだ。
写真撮って送ったら、赤いサインペンでチェックされて、ちょいとしたアドバイスが書かれて返送されてきた。
あれ、総本部の内弟子がチェックしていたらしいね。
でも、中学生の俺にはわかんないじゃない?
これ、誰が見てくれたっちゃろうか?
城西の龍、山崎照朝師範かいな?
ケンカ十段、芦原英幸師範かいな?
まさか、大山倍達館長ってことはなかろうね・・・
妄想するのは自由さ。
そんな本気になった通信生の中から、支部長も生まれてくるんだから。
要は魂の中になんの火を灯すか?
ってことだよ。
そして、当時俺はその気になった友達と、毎日昼休みに武道場で、形にもならないような組手ごっこをしていた。
ごっこだろ、って?
俺たちは本気だったさ。
壁の向こうから、ああだこうだと批判するような、つまらない連中とは、その頃から違っていたのさ。
「孤高」第7回


