プロローグ 見えるかい、このスポットライト
2026年7月4日、横浜武道館アリーナ。
会場の照明は落とされている。
運営が借りたスポットライトが、俺を照らしているのがわかる。
今から、約350年続く無外流の継承の儀が始まる。
流祖・辻月丹から高橋家へ。中川士龍先生、石井悟月先生、塩川寶祥先生、そして、わが師・新名玉宗先生へ。
歴代の宗家がつないできた道統を、今度は俺が引き継ぐ。
俺で17代目になる。
新名宗家の弟子は、消えていった者まで含めれば三千人を超える。
その中でここにたどり着いたのは、今までで俺一人だから、三千分の一だ。
こんな演出をする武道団体など、誰も想像がつかないだろうな。
普通、こういう儀式は密室で行われる。
しかし、日本中に宣言するって、最高だ。
それくらいしないと、ただでさえ人口の少ない居合は、俺たちの次の世代には絶滅してしまうぜ。
見えるかい、このスポットライト。
高市早苗総理大臣からも、祝電が届いた。
最高じゃないか。
何者かになろうとして、なれなかった俺が、何者かになる。
昨日と同じなんて、ごめんだ。
誰もやったことがないことをやろう。
「鵬玉会は、なんか怪しい」
そう言われることもあった。
誰もやったことがないことを、やってきたからな。
理解できなければ、怪しいと思うだろう。
俺は仲間たちに声をかけて、走ってきた。
そうさ。
鵬玉会というのは、お前も何者かになれる場所だ。
挑戦するための器だ。
お前も、俺の手を握らないか?
このスポットライトは、お前のためにもあるんだぜ。
俺が生まれた町から、この物語を始めよう。
飢えるように、そこから抜け出したかった。
あの町の、あの日から始めるんだ。


