必要な才能は、たった一つ
安村凰玉が語る
マドンナの鵬玉会【第七回】
居合に憧れながらも、「これは自分には縁がない。だって女性だし、もう始めるのには遅いだろう」と思い込んでいた一人の女性がいた。
望んでいたのは、道場の隅で邪魔にならないように刀を振ることだけ。大会も、昇段も、人前での演武も考えていなかった。
その女性は後に、国際居合道連盟 鵬玉会副長、錬士七段・安村凰玉となるのです。
安村凰玉は、なぜ鵬玉会を選び、武田鵬玉の居合を追い始めたのか。
その過激におもしろい第七回のはじまりです。
ゲスト|安村凰玉
インタビュー|田中知博 副長補佐
構成・編集|鵬玉会編集部


※本文中の「武田会長」は、2026年7月4日に塩川・新名伝 無外流第17代宗家を継承した武田鵬玉の、当時の呼称です。
登場人物
安村凰玉(やすむら おうぎょく)
国際居合道連盟 鵬玉会副長。錬士七段。鵬玉会草創期に入門し、武田鵬玉の居合を追い続けてきた女性剣士。鵬玉会初の六段となり、2026年7月4日、横浜武道館において錬士七段を允許され、昇段した。武道専門誌『月刊秘伝』2020年11月号の『秘伝』女子武道家名鑑に、女性の居合道家として初めて掲載。NBCのオリンピック特別番組、パナソニックの映像作品への出演など、国内外のメディア出演も多数。
田中知博(たなか ともひろ)
国際居合道連盟 鵬玉会副長補佐。塩川・新名伝 無外流第17代宗家・武田鵬玉の内弟子。宗家のそばで無外流の技と思想を学びながら、鵬玉会の指導と組織運営を支える。オンラインチーム MUGAI Broadcasting を率い、国内外をつなぐ鵬玉会のオンライン部門を牽引する。本連載では、安村凰玉の大貫禄におびえながら、ときどき命知らずな質問を投げかける聞き手を務める。
復習だけじゃ、足りない
安村凰玉副長(以下、副長); 基本一の頃から、一つ心掛けていたことがあったのよ。
田中知博副長補佐(以下、タナカ); なんですか?
副長; その日に指摘されたことは、次の稽古までに、自分なりに少しでもできるようにしていくってこと。
タナカ; ああ。最近、そういう人が少ない気がします。会長、よく言っていましたね。
「道場は稽古する場所じゃない。稽古してきたことをチェックしてもらう場所だ」って。
副長; そう。もちろん、現場では、またうまくできない。
頭では分かっていても、身体がその通りに動いてくれない。
でも、少なくとも、教わったことそのものが、自分の中から抜け落ちないようにしたかったのよ。
だから、帰りの電車では、その日の稽古内容とポイントをメモする。
タナカ; ビールを飲む前にメモ、ですね(笑)。
副長; そう! 家に帰ったら、メモを確認して、やってみる。
分からなければ考える。
お客さんとしてレッスンを受けている、なんてことじゃないんだから。
次の稽古までに、自分なりに少しでもできるようにしていかないと、教えてくださる方に失礼ってもんだし、自分が嫌になるでしょ?
タナカ; ですよねえ!
副長; それが、いつの間にか私の稽古の習慣になっていたんだけど……。
タナカ; 出た! 大どんでん返しの予感!
副長; ところが……私自身が基本二へ進むとき、それは唐突にやってきたのよ。
「では、基本二をやりましょう」
タナカ; 基本二に行くまで、会長の稽古は長いんですよね。なかなか形をやらせてもらえない。
副長; 「!」
その瞬間、初めて基本一の抜刀を教えていただいたときの、あの感覚が一気によみがえりました。
横目でチラ見はしていたものの……。
会長のおっしゃることを聞く。
周りを見る。
自分も動かなければならない。
頭の中は――
パニック。
「いかん。これ、復習だけじゃダメだ……」
と思いました。
タナカ; 分かった! 会長は当時の副長に「基本二はまだ教えていない」というのを忘れていたんですね?(爆)
副長; う~ん、そうかも(笑)。でも、先代の新名宗家も「こいつ、どうだろう?」と、いきなり聞いたりすることがあったって聞いたよ。
もちろん、会長からお許しをいただく前に、自分で勝手に次へ進むつもりはない。
それは最初から変わりません。
次へ進ませていただくのは、先生が決めること。
でも……。
タナカ; でも……。
副長; 何のイメージも持たず、手ぶらでその瞬間を迎えたら、また頭の中がカオスになる(笑)。
だったら、せめて、
「次に、こういうものが来るかもしれない」
というイメージくらいは持っておこうと思いました。
タナカ; 予習ですね。
副長; イメージだけね。
自分で先へ進むんじゃない。
でも、進ませていただいたときに、会長のおっしゃることをしっかり受け取れる準備はしておく。
なにせ、やること、なすこと、出会うこと、全部初めてなんだから。
タナカ; 新鮮ですねえ。
副長; この頃から、復習だけではなく、少しずつ予習もするようになりました。


