ちょんまげと、ぽよんぽよん
安村凰玉が語る
マドンナの鵬玉会【第十回】
居合に憧れながらも、「これは自分には縁がない。だって女性だし、もう始めるのには遅いだろう」と思い込んでいた一人の女性がいた。
望んでいたのは、道場の隅で邪魔にならないように刀を振ることだけ。大会も、昇段も、人前での演武も考えていなかった。
その女性は後に、国際居合道連盟 鵬玉会副長、錬士七段・安村凰玉となるのです。
安村凰玉は、なぜ鵬玉会を選び、武田鵬玉の居合を追い始めたのか。
その過激におもしろい第十回のはじまりです。
ゲスト|安村凰玉
インタビュー|田中知博 副長補佐
構成・編集|鵬玉会編集部


登場人物
安村凰玉(やすむら おうぎょく)
国際居合道連盟 鵬玉会副長。錬士七段。鵬玉会草創期に入門し、武田鵬玉の居合を追い続けてきた女性剣士。鵬玉会初の六段となり、2026年7月4日、横浜武道館において錬士七段を允許され、昇段した。武道専門誌『月刊秘伝』の「女子武道家名鑑」に、女性の居合道家として初めて掲載。NBCのオリンピック特別番組、パナソニックの映像作品への出演など、国内外のメディア出演も多数。
田中知博(たなか ともひろ)
国際居合道連盟 鵬玉会副長補佐。塩川・新名伝 無外流第17代宗家・武田鵬玉の内弟子。宗家のそばで無外流の技と思想を学びながら、鵬玉会の指導と組織運営を支える。オンラインチーム MUGAI Broadcasting を率い、国内外をつなぐ鵬玉会のオンライン部門を牽引する。本連載では、安村凰玉の大貫禄におびえながら、ときどき命知らずな質問を投げかける聞き手を務める。
家へ帰って、変身
田中知博副長補佐(以下タナカ); できなかった「真」を、たぶんリビングで稽古したんですよね?
安村凰玉副長(以下副長); よくお分かりで(笑)。
家へ帰って、変身。
いつものジャージ。
眼鏡。
そして、邪魔な前髪を頭のてっぺんで結ぶ。
ちょんまげ。
ジャージに帯を巻いて、刀を差す。
窓ガラスに映る自分を見る。
「…………」
めちゃくちゃダサい。
誰にも見せられない姿。
タナカ; ギャハハ(笑)。
副長; なのに、なぜか私は腰に手を当てて、ちょっとポーズを取ってみたりして。
タナカ; 余裕かましてますね(笑)。
副長; 当時、ヴィクトリアズ・シークレットの動画が大好きだったんです。
タナカ; すみません、浅学なので……。ヴィクトリアズ・シークレットって、武道具メーカーか何かですか?
副長; アメリカのファッションブランド。女性の服や下着、香水、美容用品などを扱っていて、ファッションショーがとても華やかで……。
タナカ; すみません。勉強しておきます。
副長; 「……」
窓ガラスに映る、ジャージに帯、刀、前髪ちょんまげ。
タナカ; 志村けんも真っ青ですね。
副長; 思ったのよ。
いかん。
こんなことしている場合じゃない。
タナカ; (笑)。
副長; ヴィクトリアズ・シークレットに憧れているはずなのに。
自分の姿に苦笑しながら、いよいよ復習開始!
タナカ; 開始!
副長; とはいえ、もう忘れている自信しかない。
タナカ; でしょうね。そんなに簡単には覚えられない。
副長; だから、なかなか始めない(笑)。
「……よし」
真顔を作りました。
座技は、座るところから、もう形が始まっている。
教えていただいた所作どおりに、ビシッと正座しました。
そして、窓ガラスを見る。
「…………」
うちのリビングの窓、腰壁だったー!
タナカ; ギャハハ(爆)。
副長; 正座したら、ちょんまげしか見えない。
タナカ; 窓ガラスに映っていたのは、前髪のちょんまげだけだったんですね(笑)。
副長; 「……」
ちょっと窓へ近づいてみたんだけどねえ……。
眼鏡と、揺れるちょんまげだけが見えました。
タナカ; (笑)。
副長; いや。
分かっていたんですよ?
全身が映るはずがないことくらい。
でも、人間、動揺すると不思議なことをするものです。


