初めての審査は、撃沈でした

「初めての審査は、撃沈でした」

安村凰玉が語る

「マドンナの鵬玉会」【第十一回】

居合に憧れながらも、「これは自分には縁がない。だって女性だし、もう始めるには遅いだろう」と思い込んでいた一人の女性がいた。

望んでいたのは、道場の隅で邪魔にならないように刀を振ることだけ。大会も、昇段も、人前での演武も考えていなかった。

その女性は後に、国際居合道連盟 鵬玉会副長、錬士七段・安村凰玉となるのです。

安村凰玉は、なぜ鵬玉会を選び、武田鵬玉の居合を追い始めたのか。

その過激におもしろい物語、第十一回の始まりです。

ゲスト|安村凰玉

インタビュー|田中知博 副長補佐

構成・編集|鵬玉会編集部

※本文では当時の呼称に従い、塩川・新名伝 無外流第17代宗家・武田鵬玉を「武田会長」「会長」と表記します。

安村凰玉
田中知博

登場人物

安村凰玉(やすむら おうぎょく)

国際居合道連盟 鵬玉会副長。錬士七段。鵬玉会草創期に入門し、武田鵬玉の居合を追い続けてきた女性剣士。鵬玉会初の六段となり、2026年7月4日、横浜武道館において錬士七段を允許された。武道専門誌『月刊秘伝』の「女性武道家名鑑」に、女性の居合道家として初めて掲載。NBCのオリンピック特別番組、パナソニックの映像作品への出演など、国内外のメディア出演も多数。

田中知博(たなか ともひろ)

国際居合道連盟 鵬玉会副長補佐。塩川・新名伝 無外流第17代宗家・武田鵬玉の内弟子。宗家のそばで無外流の技と思想を学びながら、鵬玉会の指導と組織運営を支える。オンラインチーム MUGAI Broadcasting を率い、国内外をつなぐ鵬玉会のオンライン部門を牽引する。本連載では、安村凰玉の大貫禄におびえながら、ときどき命知らずな質問を投げかける聞き手を務める。

他人事ではなくなった日

田中知博副長補佐(以下、タナカ) 今回は、副長に起こった「まさか!」をお聞きしたいです。

安村凰玉副長(以下、副長) 「その時」は突然訪れるのよねえ。

先輩たちの二級審査があったのよ。

「お! また先輩たちの演武が見られる!」

なんて調子でね。いそいそと隅っこへ移動して、刀を外そうとしたのよ。

すると、武田会長が、

「安村さんは、真、胸尽くし、円要」

「……」

ん?

んん??

もしや、これは――。

いや、落ち着け。

刀礼は覚えた。

真も覚えた。

胸尽くしも覚えた。

円要も覚えた。

まだまだへたっぴだけど……!

タナカ まさか、逃げなかったでしょうね。

副長 当たり前じゃない。

すると、会長。

「はい。並んで」

え!

れ、練習は?

予行練習は……?

二度目の「私、肚をくくる」の巻です。

タナカ (笑)

副長 ドキドキしながら座りました。

正式刀礼。

できた。

帯刀。

できた。

タナカ なんか、僕までドキドキしてきました。(笑)

副長 真。

なんとかこなした。

一瞬、あの「ぽよんぽよん」が脳裏を横切る。

ちょんまげが……。

タナカ 胸尽くしに集中しましょう!

副長 そうよ、あのときの私! 胸尽くしに集中して!

胸尽くし。

円要。

なんとかしのぐ。

そして、終わりの刀礼へ。

「……」

ん?

タナカ なんか嫌な予感!

何が起こったんですか?

副長 いつもの稽古では、武田会長の「終わります」を合図に刀を帯から外し、整列します。

そこから座って、心得を暗唱し、「ありがとうございました」とご挨拶をしてから刀礼をする。

タナカ ああ、心得の暗唱って、財団法人無外流に関係する会の中で、毎回の稽古の終わりに行っていたのは鵬玉会だけだったそうですよ。

そもそも他の会では、審査のときだけみんな覚えていたそうです。

でも、それじゃ、この心得が死んでしまう。だから、極真スタイルで、稽古の最後に全員で唱和するようにしたんだそうです。おかげで、今ではジュニアまで心得を覚えていますもんね。

副長 そのときの私は、そんなことを考える余裕なんてないよ。

ああ! 待って。

形が終わって、そのまま刀礼するの?

いや、どうやるの!!

とりあえず、刀を帯から外してしまえ。

タナカ ああ! やってしまった。

副長 座りました。

刀礼しました。

結果は――。

タナカ 許してもらえましたか?!

副長 会長が許すはずないじゃない。

もちろん、撃沈。

タナカ ええ! 副長でも許してもらえなかったんですか?

副長 「安村さんは、所作がまだやね」

「……すみません」

あのとき。

それまでの先輩たちの審査を、なぜちゃんと見ていなかったのか。

なぜ、他人事にしていたのか。

初めての審査は、撃沈でした。

ただただ、茫然。