初段――お情け昇段?

初段ーーお情け昇段

安村凰玉が語る

「マドンナの鵬玉会」【第十二回】

居合に憧れながらも、「これは自分には縁がない。だって女性だし、もう始めるには遅いだろう」と思い込んでいた一人の女性がいた。

望んでいたのは、道場の隅で邪魔にならないように刀を振ることだけ。大会も、昇段も、人前での演武も考えていなかった。

その女性は後に、国際居合道連盟 鵬玉会副長、錬士七段・安村凰玉となるのです。

安村凰玉は、なぜ鵬玉会を選び、武田鵬玉の居合を追い始めたのか。

その過激におもしろい物語、第十二回の始まりです。

ゲスト|安村凰玉

インタビュー|田中知博 副長補佐

構成・編集|鵬玉会編集部

※本文では当時の呼称に従い、塩川・新名伝 無外流第17代宗家・武田鵬玉を「武田会長」「会長」と表記します。

安村凰玉副長
田中知博

登場人物

安村凰玉(やすむら おうぎょく)

国際居合道連盟 鵬玉会副長。錬士七段。鵬玉会草創期に入門し、武田鵬玉の居合を追い続けてきた女性剣士。鵬玉会初の六段となり、2026年7月4日、横浜武道館において錬士七段を允許された。武道専門誌『月刊秘伝』の「女性武道家名鑑」に、女性の居合道家として初めて掲載。NBCのオリンピック特別番組、パナソニックの映像作品への出演など、国内外のメディア出演も多数。

田中知博(たなか ともひろ)

国際居合道連盟 鵬玉会副長補佐。塩川・新名伝 無外流第17代宗家・武田鵬玉の内弟子。宗家のそばで無外流の技と思想を学びながら、鵬玉会の指導と組織運営を支える。オンラインチーム MUGAI Broadcasting を率い、国内外をつなぐ鵬玉会のオンライン部門を牽引する。本連載では、安村凰玉の大貫禄におびえながら、ときどき命知らずな質問を投げかける聞き手を務める。

武田会長、私を置いて帰る

田中知博副長補佐(以下、タナカ) 今回は、神田道場の大掃除の続編ですね。

安村凰玉副長(以下、副長) おおかた掃除も終わった頃、先代・新名ご宗家から、

「安村さん、お正月飾りをお願い」

と頼まれました。

タナカ ああ、鏡餅ですね?

副長 飾り終えて、振り返ると――。

宴席ができていました。

ビール、日本酒、おつまみ。

みなさん、円陣を組んでいます。

タナカ みなさん、副長がうわばみだと知らなかったでしょうから、びっくりされたでしょう?

副長 いやん、ばらさないで~!

タナカ 今さら遅いですよ。みんな知っています。(きっぱり)

副長 (笑)新名ご宗家が、

「はい、じゃあ、みんなお疲れさん!」

「かんぱーい!」

プハー!

掃除の後のビールは、うまいぜ!

タナカ あれ? 武田宗家は、お酒を飲めませんよね? どうされたんですか?

副長 それ! まったく興味がないから、その瞬間、

「ご宗家、それでは失礼します」

あごがブラジルまで飛んでいくかと思いました!

タナカ ギャハハ(笑)!

え? 帰っちゃうの?! という感じだったでしょう?

副長 私は、知らないおじさんたちに囲まれて、どうしたらいいんでしょう?

武田会長が、私の目を見て、

「うん」

とうなずいただけ。

タナカ これは難しい!

「帰るぞ」の「うん」なのか、「残っていい」の「うん」なのか?

副長 それ! 分からない。

でも、不安だから腰を浮かせかけたところで――!

タナカ 腰を浮かせたところで!

副長 先代が、

「安村さんは飲めるんだろう? 飲んでいけ!」

思わず、会長を見たわよ。

そしたら「うん」とうなずいたように見えて、ああ、「楽しんでいけ」と。

タナカ ポジティブに考えて。(笑)

副長 会長は、どうでもよかったんでしょうね。

「では、これで」

と、出口へ。

ドアが「パタン」。

行ってしまった。

タナカ ギャハハ(笑)。

副長 私を置いて……。

すると、新名ご宗家が、

「安村さん、日本酒は飲めるか? たくさんあるぞ!」

たぶん私、ちょっとニヤッとしたと思います。

お酒、実は得意!

タナカ 「実は」って……。みんな知っています。

副長 私は、父から「量」を、母から「スピード」を受け継いでいます。

「女の酔っ払いほど、見苦しいものはない。何があっても、外で酔っぱらうな」

と育てられました。

学生時代も、社会人になってからも、ずっと修行をしてきたからねえ。

タナカ え? それ、修行なんですか?

修行で酒豪とか。

副長 ……。

お父さん。

お母さん。

見ていてください。

あなたたちの娘が、ここで真価を発揮します。(笑)

大掃除の最初、新名ご宗家から、

「鵬玉会は荒くれ者ばかりだろ。大丈夫か?」

と心配していただきましたが――。

タナカ ご安心ください。

副長も荒くれ者です。

二人 (爆笑)