始まりは、一本の帯だった|安村凰玉が語る マドンナの鵬玉会【第十五回】

始まりは、一本の帯だった

安村凰玉が語る

「マドンナの鵬玉会」【第十五回】

居合に憧れながらも、「これは自分には縁がない。だって女性だし、もう始めるには遅いだろう」と思い込んでいた一人の女性がいた。

望んでいたのは、道場の隅で邪魔にならないように刀を振ることだけ。大会も、昇段も、人前での演武も考えていなかった。

その女性は後に、国際居合道連盟 鵬玉会副長、錬士七段・安村凰玉となるのです。

安村凰玉は、なぜ鵬玉会を選び、武田鵬玉の居合を追い始めたのか。

その過激におもしろい物語、第十五回の始まりです。

ゲスト|安村凰玉

インタビュー|田中知博 副長補佐

構成・編集|鵬玉会編集部

※本文では当時の呼称に従い、塩川・新名伝 無外流第17代宗家・武田鵬玉を「武田会長」「会長」と表記します。

安村凰玉
田中知博

登場人物

安村凰玉(やすむら おうぎょく)|プロフィール

国際居合道連盟 鵬玉会副長。錬士七段。鵬玉会草創期に入門し、武田鵬玉の居合を追い続けてきた女性剣士。鵬玉会初の六段となり、2026年7月4日、横浜武道館において錬士七段を允許された。武道専門誌『月刊秘伝』2020年11月号の「『秘伝』女子武道家名鑑」に、女性の居合道家として初めて掲載。NBCのオリンピック特別番組、パナソニックの映像作品への出演など、国内外のメディア出演も多数。

田中知博(たなか ともひろ)|プロフィール

国際居合道連盟 鵬玉会副長補佐。塩川・新名伝 無外流第17代宗家・武田鵬玉の内弟子。宗家のそばで無外流の技と思想を学びながら、鵬玉会の指導と組織運営を支える。オンラインチーム MUGAI Broadcasting を率い、国内外をつなぐ鵬玉会のオンライン部門を牽引する。本連載では、安村凰玉の大貫禄におびえながら、ときどき命知らずな質問を投げかける聞き手を務める。

自分にできることはないか?

田中知博副長補佐(以下、タナカ) いよいよ、参段を目指す副長のお話です。

みんなー! 待ってたか~!?

安村凰玉副長(以下、副長) (笑)

タナカ 初段・弐段って、どうなんですかね。

やめずに続けて、普通に頑張れば、鵬玉会では三年ほどで取れるかもしれない――それが初段ですよね。

「ようやく門にたどり着いたところ。屋敷はまだ見えない」

とも言われます。

弐段の頃って、どんな感じだったんですか?

副長 ああ! その頃の話へ進む前に、どうしても素通りできない、すごいことがあったのよ!

タナカ ワクワク!

副長 確か、初段になるかならないかの頃の話なんだけどね。

当時、体験に来る人や、新しく入会する人への対応は、すべて会長がやっていたのよ。

タナカ 今から考えると、ぜいたくですねえ。

副長 「荷物は、ここに置いてください」

「ここで着替えてください」

「帯を結びましょう」

タナカ 見た目は“アレ”ですが、気さくな方ですもんね。

副長 “アレ”……。

報告しておきます。

タナカ ひええ! それだけは許してください~!

副長 会長よ。師範よ。

しかも、先代が直接、個人指導されている方でしょ?

そんな方が、初心者に稽古をつけるだけでなく、初めて道場へ来た人を迎えるところから、全部やられるわけ。

タナカ 鵬玉会は、ゼロから始まっていますからねえ。

私も、その頃を見たかったです。

副長 初めて道場にやってきた人を迎えるところから、すべて会長がされていました。

私は、ちょっともじもじしてね。

何か、お手伝いできないかな……。

タナカ 副長が迷うなんて。

そんな乙女なところがあるとは、思いませんでした。

副長 誰にだって、あるでしょう?

私は、ジムの会員じゃないのよ。

ジムだったら、指導者が新人の対応ばかりしていたら、

「新人の世話ばっかりして」

と思う人もいるでしょう。

でも、私たちは武道の門をたたいているわけじゃない?

タナカ 「武道の稽古は、どこでするものか」ということにも関係しますね。

武道の稽古は、自分でしてくるもの。

道場は、自分で稽古してきたものを、指導者に見ていただく場所です。

それが分からない人は、上手くならない。

会長が新人を見ておられるなら、その間は自分一人で稽古できるチャンスです。

副長 ジムの会員なら、

「私たちを置いてけぼりにしている」

と、文句を言うところでしょうね。

タナカ そんな人は、続きませんよね。

副長 私は、そのとき、こう考えたのよ。

だったら、今この瞬間に、自分が果たすべきことがあるんじゃないかな?

でも、邪魔をしたら迷惑かな……。

何か言ったら、怒られるかな……。

そんなある日、会長から言われたのよ!

これが!

タナカ ワクワク!