百足伝(ひゃくそくでん)

無外流とはindex
無外流の歴史
1)流祖辻月丹
2)無外流の伝播
3)中興の祖 そして未来へ
4)流祖から鵬玉会までの流れ

無外流を考える
1) 無外流の特色
2) 無外真伝剣法訣 2
3) 無外真伝剣法訣 3
百足伝

百足伝は居合の多賀自鏡軒の歌
「(百足伝は)多賀自鏡軒が門人に対して、稽古のたびに相手の人間を見て
指南をしたものです。」
と中川士竜先生は残しています。(敬称略)

 百足伝が平易な言葉で書かれた裏にあるものは平易な言葉で歌として表現された百足伝を解きほぐす鍵はおそらく二つ。
 それは

1) 平易な道歌として描かれたのは、どのレベルの門人にも口授できるように。
 言わば、教える側の「修行上の心構え」の共有
2) 禅語を駆使でき、そして駆使する流租辻月丹が、それでもこの歌を後世の門人達に残したのは、平易なその内容が普遍のものであったから
というようなものではないでしょうか。

百足伝も我が物にして気剣体を一致させよ
 百足(むかで)という虫は、百本足はありますが、歩くのに(足が絡むことがなく)不自由はありません。
 剣術もまた同じように、気と剣と体が一致して無意識で行うようにならないといけません。」
と中川士竜は残しています。
 私たちは凡人であることを胸に刻み、百足伝の心構えで修行に望まなければならないのでしょう。

百足伝 1

1 (いち) 稽古には清水(しみず)の末の細々と絶えず流るる心こそよき
 百足伝最初の歌は、まさにこの中川士竜が私たちに目指すように言う、気剣体一致の無意識まで迫るための心構えのように思います。

2(に) 夕立の せきとめかたき やり水は やがて雫(しずく)も なきものぞかし
3(さん) うつるとも 月も思わず うつすとも 水も思わぬ 猿澤(さるさわ)の池
4(し) 幾千度(いくちたび) 闇路(やみじ)をたどる 小車(おぐるま)の 乗得(のりえ)てみれば 輪(わ)のあらばこそ
5(ご) 稽古には 山澤河原(やまさわかわら) 崖や淵(ふち) 飢えも寒暑(かんしょ)も 身は無きものにして

6(ろく) 吹けば行く 吹かねば行かぬ 浮き雲の 風に任(まか)する 身こそやすけ

7(しち) 山河(やまかわ)に 落ちて流るる 栃殻(とちがら)も 身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ
8(はち) わけ登る 麓(ふもと)の道は 多けれど 同じ雲井(くもい)の 月をこそ
見れ
9(きゅう) 兵法(ひょうほう)は 立たざる前に 先(ま)づ勝ちて 立合(たちあ
い)てはや 敵はほろぶる
10) 體(たい)と太刀と 一致(いっち)に成りて まん丸に 心も丸き これぞ一圓
(えん)
11(じゅういち)稽古にも 立たざる前の 勝(かち)にして 身は浮島(うきしま)
の松の色かな
12(じゅうに) 曇りなき 心の月の 晴(はれ)やらば なす業々(わざわざ)も 清
くこそあれ
13(じゅうさん) 軍(いくさ)にも まけ勝(かち)あるは 常(つね)の事 まけて負けざる ことを知るべし
14(じゅうし) とにかくに 元(もと)を勤(つと)めよ 末々(すえずえ)は ついに治(おさむ)る ものと知るべし

15(じゅうご) 兵法(ひょうほう)の 奥義(おうぎ)はまつ毛の 如(ごと)くにて あまり近くて 迷いこそすれ

16(じゅうろく)我流(わがりゅう)を つかはば常に 心還(また) 物云ふ迄(ものいうまで)も 修行ともなせ
17(じゅうしち) 我流(わがりゅう)を 使ひて見れば 何もなく ただ心して 勝つ道を知れ
18(じゅうはち) 兵法(ひょうほう)の 先(せん)は早きと 心得て 勝を急(あ
せ)って危うかりけり
19(じゅうく) 兵法(ひょうほう)は つよきを能き(よき)と 思(おもい)なば終(つい)には負けと 成ると知るべし
20(にじゅう) 兵法(ひょうほう)の 強き内(うち)には つよみなし 強からずし
て負けぬものなり


21(にじゅういち)立会はば 思慮分別(しりょふんべつ)に 離れつつ 有(あり)
そ無(な)きぞと 思ふべからず
22(にじゅうに)兵法を 使へば心 治(おさ)まりて 未練(みれん)のことは 露
(つゆ)もなきもの
23(にじゅうさん) 朝夕に 心にかけて 稽古せよ 日々に新たに 徳を得るかな
24(にじゅうし)長短(ちょうたん)を 論(ろん)することを さて置(おき)て 己(おの)が心の 利剣(りけん)にて斬れ
25(にじゅうご)前後左右(ぜんごさゆう) 心の技(わざ)直(す)ぐならば 敵のゆがみは 天然(しぜん)と見ゆ

26(にじゅうろく)雲霧(くもきり)は 稽古の中の 転変そ 上は常住 澄める月日ぞ
27(にじゅうしち)兵法(ひょうほう)は 行衛(ゆくえ)も知らず 果てもなし 命限りの 勤(つとめ)とぞ知れ
28(にじゅうはち) 我流(わがりゅう)を 教へしままに 直(すぐ)にせば 所作鍛練(しょさたんれん)の 人には勝べし
29(にじゅうく) 麓(ふもと)なる 一本の花を 知り顔に 奥もまだ見ぬ 三芳野(みよしの)の春
30(さんじゅう) 目には見え 手には取れぬ 水中(すいちゅう)の 月とやいはん 流儀なるべし


31(さんじゅういち)心こそ 敵(てき)と思ひて すり磨(みが)け 心の外(ほか)に 敵はあらじな
32(さんじゅうに) 習(ならう)より 慣(な)るるの大事 願(ねがわ)くは 数(かず)をつかふに しくことはなし
33(さんじゅうさん)馴(な)るるより 習(ならう)の大事 願(ねがわ)くは 数(かず)もつかへよ 理(り)を責めて問へ
34(さんじゅうし)屈たく(くったく)の 起(おこ)る心の 出(いず)るのは そは剣術に なるとしるべし
35(さんじゅうご)世の中の 器用不器用(きようぶきよう)異(こと)ならず 只真実(ただしんじつ)の 勤め(つとめ)にそあり

36(さんじゅうろく)兵法(ひょうほう)を あきらめぬれは もとよりも 心の水に 波は立つまじ
37(さんじゅうしち)剣術は 何に譬(たと)へん 岩間(いわま)もる 苔(こけ)の雫(しずく)に 宿る月影(つきかげ)
38(さんじゅうはち) 性(さが)を張(は)る 人と見るなら 前方に 物あらそひを せぬが剣術
39(さんじゅうく) 兵法(ひょうほう)は 君(きみ)と親との 為(ため)なるを 我身(わがみ)の芸と 思ふはかなさ
40(しじゅう) 一つより 百まで数へ 学びては もとの初心(しょしん)と なりにけるかな

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