第17回
無監査刀匠 兼国先生(後編)
刀も人も出会いは運と縁
平成27年春、武田鵬玉が手に入れた一振りの刀。
その刀を作られた、無監査刀匠の兼國先生へのインタビューの後編です。
後編では実際に刀を作られる鍛錬所へとご案内いただきます。
(インタビュー 武田鵬玉)
14) 基本を知る 刀のつくり方
兼国先生 ここが鍛錬所です。(武田の娘に)この砂、砂鉄って言うんだよ。炭を使って溶かして、これを塊にするんだよ。
武田の娘 へー
兼国先生 玉鋼(たまはがね)を薄くつぶしてへして玉へしという状態にし、小割りにし折れ口を見て、どの部分に使うかを分類します。外側の「皮鉄(かわがね)」、内側の「芯鉄(しんがね)」にしようか、とね。
武田 なるほど。
兼国先生 ここから重要な作業です。これを積み重ねて鍛錬を始めるんです。刀には肌がありますが、それを出すために鍛冶屋さんによって鍛錬回数を変えてみたり、各自工夫をします。
武田 それがその刀匠の持ち味になっていくわけですか?
兼国先生 そうですね。強いもの、弱いものの組み合わせも考えます。これは四方詰(しほうづめ)と呼ばれる工程です。刃、芯鉄、棟鉄(むねがね)、皮鉄(かわがね)」と四つ足したものが伸びます。私は「四方詰」ではなく、「甲伏せ(こうぶせ)」という方法で作ります。甲伏せは皮鉄で芯鉄をくるみ、沸かしながら打ち伸ばすんです。
武田 それは何か理由があるんですか?
兼国先生 四方詰は砂流など、少し強い働きが出ますから、美しい肌(地金)を見せたいという理由から甲伏せをします。その途中のものをお見せしましょう。素のべです。
武田の娘 わあ。凄い。刀みたい。
武田 うん、刀になってきとるね。
15) 一振一ヶ月
兼国先生 長さも重ねもこの段階で決まるんです。後は手槌で刃の方を打ち出していくだけですから、ここをきちんとしておかないと。
武田 「この長さで作ってください」ということもできるわけですか?
兼国先生 できます。長さ、重さ、指定されればその方量で作りますね。これは焼き刃土を塗る過程です。これで刃文を作ります。直刃、互(ぐ)の目、丁子、三本杉、これがうちの刃文ですね。
武田 濤瀾乱刃ですね。
兼国先生 はい。これらは見本に塗ってみたものです。
武田 なんかこれ見るだけでも凄いですね。
兼国先生 いろんな先生方がそれぞれ工夫されていますね。焼き入れのとき急冷すると一瞬刀はうつむくんですよ。
武田 うつむく?
兼国先生 はい。冷えてくると刃の方に焼き上がり、棟の方に押し上げられて反ってきます。冷えてくるまではこの土は落ちてはいけないんですよ。
武田 へー!
兼国先生 そこが難しいですよね。土も鉄にあっていないと、良い焼き刃は入りません。だから私の焼き刃土を他の方にあげても同じようにはならないんです。
武田 逆もあるんですよね?
兼国先生 だから焼き刀土をもらうこともないんです。そこから反りなどを調節していくんです。そんなふうにして、一ヶ月ぐらいで一振り仕上げていくんです。
16) あなたに最適な一振をいつか
武田 聞けば聞くほど一振作っていただきたくなりますね。
兼国先生 武田さんのイメージにぴったりの刀を作ることもできます。
武田 それは魅力的ですね!
兼国先生 長さも反りも重さも申し分ない、刃文もイメージ通りの一振をいつか作りましょう。
武田 ありがとうございます。いつか必ず作っていただきます。
武田の娘 いい感じ?
兼国先生 そう、いい感じだよ。刀の100gは大きい差ですからね。
武田 そうですよね。
兼国先生 それにしても、20年たって一所懸命作った思い出の刀がお店に出ていたのも不思議な気分ですが、それを大事にしていただける方がはるばる会いに来られた、というのも大変ありがたく思います。
武田 きっと居合をやるような方達には、みんなそれぞれの出会いの物語があるのだろうと思います。私もご縁を感じます。これからもよろしくお願いします。